もくわく産地だより:福岡 / 木や森のこと
品種の八女杉 @福岡県八女市 八女流
2024.11.25(Mon)
固有品種が多い優良林業地 八女
「もくわく」の産地 の一つ、福岡県八女市は天保年間(1840年代)頃から約180年の歴史を持つ林業地で矢部川上流の約3.2万haを八女林業地と呼んでいます。
江戸時代は木場作を中心とした疎植型の林業(ブログ参照)が中心でしたが、明治時代に入ると吉野林業の影響を受け、密植による足場丸太の生産が始まります。さらに周辺の日田や小国林業地から数品種を導入したり実生スギからも採穂することで幼時成長の早い品種の選抜挿し木が各地で盛んに行われるようになりました。
他の林業地とは異なり八女固有品種が多いことで全国的にも有名な優良林業地とされています。
約30種もある品種!
そんな八女で植えられている八女杉の品種を8つ紹介したいと思います。八女杉は約30品種あるとされているだけあって由来にも様々なものがあります。
九州在来の5大品種とされているのがメアサ、ホンスギ、アヤスギ、ヤブクグリ、ウラセバルで、そのうちメアサ、ホンスギ、アヤスギ、ヤブクグリは挿しスギ系、ウラセバルは実生スギ系とされています。
このうち、八女で造林されている品種としては、九州在来のホンスギ、アヤスギ、アカバ、メアサ、主に日田林業地から持ち込まれたヤブクグリ、ウラセバル、品種名不明のまま他地域から移入されて増殖された品種(コガボ、ホッシンアオバ、リョウタロウアオバ、ゼンダ)に加えて八女地域で実生スギから選抜育成した育成品種(ヤイチ、リュウスギ、マタサン、カゾウ、キウラ、ナカムラ、ワカツ、ヤマグチ、シチゾウ、オウブチボ、フネサコ、ナガエダ、オウエダなど)があります。
8つの品種をご紹介!
【九州在来品種】
1.メアサの特徴
九州で最も古い在来品種の一つで、江戸時代には薩摩藩、肥後藩が造林を推奨したことから九州中南部に多く造林されました。八女市内にある神社の境内林などもアオスギと呼ばれるメアサに分類されます。
幹は真っすぐで断面は正円に近く、心材は淡紅色か帯赤色で辺材は淡黄色です。成長は遅く、造林初期の下刈り回数が多いのが造林上の欠点ではありますが、壮齢期を迎えた後は長く成長を持続して100年以上の優れた林になることから鎮守の森の杉がメアサだというのも納得ですね。メアサは雄花をほぼつけない花粉の少ない品種です。
2.ホンスギの特徴
ホンスギは幹が真っすぐ伸びて断面は正円、心材の色は淡紅色という建築材によく使われます。成長が遅く目が詰まっていることから優良材として内装材としても好まれていますが、残念ながら成長が遅いのと湿潤性土壌を好む性質が強いことから造林適地が少なく、近年では減少傾向にあり、あと10年もしたら無くなるという声も聞かれます。ホンスギは『浮羽5号』という少花粉杉としても品種登録されていて、シロアリに対する殺蟻活性が高いことも検証されています。
個人的には目が詰まって艶もあるホンスギが一番好きな品種で、市場で買い付ける時にホンスギが入っていると当たりだと思っていますが、製材する人から見ると製材後に曲がったり反ったりする難物です。
3.アヤスギ(アカバ)の特徴
九州中部以北の代表的品種の一つで、冬に葉が赤くなることからアカバと呼ばれる亜種もあります。こちらも幹は真っすぐ伸び、断面は正円で心材が赤褐色なことから建築材として好まれます。成長が遅いのはホンスギと同様で目が詰まった良質材が取れます。アヤスギも雄花をほとんどつけない花粉の少ない杉です。
アヤスギ系の中でも福岡や佐賀県下で古くから分布するアカバは八女地方で180年前から造林されていたことが確認されています。アカバはアヤスギよりもやや成長が早く、心材は黄色がかった赤色で、『八女10号』という少花粉杉として品種登録されており、シロアリにも強いという研究結果もあります。
「もくわく」は主にアヤスギやアカバの良質材から作られています!
【他地域からの移入種】
4.ヤブクグリの特徴
大分県の日田や熊本県の小国における代表的な挿し木品種で、特に日田地域では一時期スギ林の約70%をヤブクグリが占めていました。心材は赤褐色ですが、湿潤地ではやや黒みがかった赤色になります。成長は平均的で材に粘りがあることが評価されています。ヤブクグリ系では『浮羽4号』が少花粉杉として品種登録されています。
5.ウラセバルの特徴
明治初期からあったと考えられる天然実生スギから挿し木になった品種です。幹は概ね真っすぐで断面は正円に近いのですが、心材は水分を多く含み、暗褐色や帯黒褐色と黒っぽいことから内装材にはあまり向いていません。早生型で材の強度はやや脆いという特徴もあります。
6.コガボ(古賀穂)の特徴
他地域からの移入種の例としてコガボを紹介します。八女市上陽町上横山古賀と星野村を中心に造林されている品種です。明治40年頃古賀の井上虎平さんが日田から持ち帰った品種不明な挿し穂から選択育成した虎平スギが星野村にも造林先が拡大する中でコガボ(古賀穂)と呼ばれるようになったようです。
一代で3回伐れると言われたほど早生型で、幹は湾曲性が甚だしいものの心材は淡赤色です。他地域から移入された品種はリョウタロウアオバも含めて足場丸太や枕木、電柱材の生産が華やかな頃に早生品種を移入してきた経緯がありそうです。
【実生スギから八女で選抜された品種】
7.ヤイチの特徴
明治末期に八女市星野村の江良藤太郎さんが天然生のスギから成長旺盛な母樹に着目し、実生苗を養成して造林したのが始まりとされる品種です。造林木が驚異的な成長をしたことから一族の江良弥一さんがさし穂を採取、増殖して量産体系の基盤を確立したことからヤイチと呼ばれています。ヤイチの中から優れた個体を選別して『星野1号』として品種登録され、現在では星野1号をヤイチと呼んでいます。ヤイチもほぼ雄花をつけず、花粉の少ない杉です。
星野雲通と呼ばれるほど成長が早く、幹は真っすぐでほぼ正円、心材は赤く心材の占める割合が多いのが特徴です。実生スギ系は挿し木スギ系と比較して材の強度が強く、建材にも向いています。
8.シチゾウの特徴
大正初期に八女市星野村の佐々木七蔵さんが選抜した品種です。強度は強く幹はまっすぐで心材はやや黒みがかった赤色ですが、湿潤地ではやや黒みが増します。成長が早い早生型ですが挿し木の発根性が低く、他地方にはあまり出荷されていません。雪害に対する抵抗力が最も強い品種の一つとされています。シチゾウは『八女9号』という少花粉杉として品種登録されています。
八女杉と言っても様々な品種がありますが、その中でも代表的なものを今回は紹介しました。その中でももくわくになるのはホンスギ、アヤスギ系が中心です。八女杉のもくわくを手にした時、これはなんの品種かな?と考えてみるのも楽しいと思います。
株式会社八女流 沖 雅之
参考文献
『九州のスギとヒノキ』 宮島寛著
『福岡県森林林業技術センター 研究報告 2011年3月』 福岡県森林林業技術センター
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